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高松家庭裁判所 昭和45年(少)5082号 決定 1970年6月19日

少年 E・I(昭二五・九・四生)

主文

少年を中等少年院(交通短期少年院)に送致する。

理由

(事実)

少年は、公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四五年五月一五日午後三時五分頃、香川県香川郡○○町大字○○○○○十字路付近道路において、軽四輪貨物自動車(○香に○○○○号)を、運転したものである

(適条)

道路交通法第六四条、第一一八条第一項第一号

(処遇)

少年は、すでに普通車の無免許運転で三回検挙され、昭和四三年五月保護観察処分、同年一二月刑事処分にそれぞれ付されたが、その前後において、検挙はされていないけれども、かなりの回数にわたり常習的に同様の非行を続けていたうえ、無反省に本件を敢行したものであるから、交通法規を遵守し安全を確保しようとする自覚がほとんど身についていないとみるほかない。

そして、少年の精神面をみるに、知能は準普通域にあり、明朗活発であるが、とかくのんきで楽天的に過ぎ、物事を安易単純に考え、思いつきのまま軽々しく事を即行し、また、自分の失敗や都合の悪いことについていたずらに要領を用いて糊塗する傾向がある(但し極端に根深い悪質さはない。)など、軽視できない問題があり、これが前記のような無自覚、非行反覆の原因であるとみられる。さらに、少年には、浪費、交友不良、保護者との円満な接触欠如などといつた素行上の問題もある。

ところで、少年は、将来、貨物自動車の運転手となつて身を立てたいという希望をもつており、これまでに再度にわたり自動車学校に入学して免許を取得しようとしたが、最終試験に不合格となつてあきらめたり、怠けて中途退学したりして、とにかく根気が続かず、この調子では、免許取得も容易に期待できないと思われる。現に、少年は、審判に際し、今後無免許運転は絶対にしない旨一応誓いはするが、免許取得への努力ということになると、どうしても自信がもてず、二、三年計画で徐々にやつてみるという程度の意向しか示さない。こういうことでは、前記のような少年の性格やこれまでの非行歴からみて、無免許であるのに自動車の、運転をしたいという衝動を押えかね、さらに非行を反覆することは必定であつて、やがては事故を惹起するであろうという危険性もある。

少年が、将来、自動車運転手として生計をたてていくことは、その性格にも合致しており、また、現段階では他に適職もみあたらないことからまことに望ましいことであるけれども、そのためには、以上に述べた事情等にかんがみ、まず、少年において交通法規遵守の精神と安全運転の心構えを徹底的に身につけ且つできる限り早く運転免許を取得することが必要不可欠であつて、それを実現することが、とりもなおさず、少年の非行性の洗除、健全育成につながるとみられる。

しかして、これに資するためには、その他調査審判にあらわれた諸般の事情をも斟酌すれば、従来のような在宅保護では不十分であつて、この際少年を矯正教育(松山少年院で実施している交通関係短期教育訓練)に託し、その専門的処遇を受けさせるのが最も適切有効であると思料される(少年自身、調査審判を通じて、収容保護に服するか否かにつき、かなりの迷いを感じていた模様であるが、審判の結果、結局、自己の非を反省し、きびしい訓練に耐え且つ根気よく勉強して早く免許を取得しよう、という意欲をみせ、積極的に収容されたい旨申出るに至つた。そこで、少年院側におかれては、種々の制約はあろうが、可能な範囲で、免許試験に必要な知識技能の修得並びに免許試験受験の機会を与え、少年の自発性を助長してなんとか免許取得が実現するよう、格別の配慮をせられたい。)。

よつて、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 山脇正道)

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